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馬花 121 乙女の真心 1年2組

いつか少女が作ったペットボトルの花瓶には一輪の花が咲いていた

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12本の赤い薔薇は散ったけど、

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なあ、アユラ

ごめんな

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「いやだよ!」

「アユラ、仕方ないんだ」

「絶対にいやだよ!転校なんて」

「近いから、浜松市だから」

「私は名古屋がいいの!」

「仕方ない、頼むよアユラ」

「みんなと離れるなんてあり得ないし」

「一緒に行くんだ」

「いやだよ、ダディ。私1人でも大丈夫だよ。だってみんないるじゃん」

「お前は俺と来るんだ」

「引越しなんて・・・」

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父アネハはスーパー熱田店の副店長だ

愛知県内に14店舗構えるスーパーは、初めて他県へ出店する運びとなった

隣の静岡県へ出店する

スーパーは既に豊橋まで店舗を構えていて浜松市へ市場を拡大させることは流通網においても定石通りの出店だった

そのまま副店長となる

当初、別の人間が対象だったが病で頓挫したためお鉢が回ってきた

既に着々と出店準備は進んでいた


他県への初出店の先鋒役になることはやりがいのある使命と感じることができたし、サラリーマンの習いに従って受けるつもりだった、

県を跨ぐことで市場性が変わるから、自らの生活で市場の特性を把握するため現地に居を構えることも条件だった

静岡地域の加工食品バイヤーも兼任する

1月7日が新店ハミマツ店の開店日だ


娘の抵抗は予測していた

4年生の娘は期待通りに、幼いながらも自身の生活の平穏を確保するための必死さを露わにした

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「みんないるし、ルルサとかルチカとか」

「一緒に来てくれ、頼む」

「大丈夫だよ、私」

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あの人のことはもう諦めた

本当はこの地を離れて彼女と距離を置きたい大人の打算があった

娘にはそんなことは、言えなかった


「俺がアユラと一緒にいたいんだ」


娘の存在は諦めない

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(肩車するか)

(たかい!たかいっ!ダディ重くない?)

(軽い軽い。もっと大きくなるんだぞ、アユラ)


「シクシク」

「ごめんな、アユラ」

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「一緒に来てくれるな」

「シクシクシク、ダディ」

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ううん

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どこにいても家族だ

大丈夫大丈夫

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空もあるし

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少女がペットボトルの花瓶に挿した花も


「シクシク、ダディ」

「うん、アユラ」


肩車したあの日も


「一緒に行ってあげる」

「ありがとう」


乙女の真心も


「私がいないとダディ可哀想だし」

「ありがとう」


娘よ

君が水を遣ってくれるから

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まだまだ咲いていられる


娘の涙を見ていられなくなって

花瓶に目を視ったら、

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コスモスの茎が裂けていた